Blue Eyed Baby =青い目の赤ちゃん=
拙著「地下鉄のギタリスト Busking in London(水曜社)」より
★9月6日(火曜日) 曇一時雨
トテナムコートロード駅ピッチ1 18時〜20時
レスタースクエア駅ピッチ1 20時〜22時
BGM 「Nocturen, OP9-2 NO2」by ショパン
今日は遅い時間からのバスキング。21時ごろになるとほとんど人通りがなくなってしまった。それでもたまに酔っぱらいがお札をくれることもあるので、いつもどおりの「魂の演奏」をしていた。
ふと気づくと、目の前に乳母車があった。
「この子は生まれてまだ3ヵ月だけど、音楽がすごく好きなのよ。将来はミュージシャンになるのかもね。私はクラシックが好きだからバイオリンでも習わせようかと思っているの。でも、あなたみたいにギターもいいわね」
30代くらいの女性が、乳母車の中の赤ちゃんをあやしながら僕に話しかけてきた。
「そうだ、なにか1曲この子のために弾いてくださらない?」
そんなことならお安い御用だ。でも、まだ赤ちゃんなのであんまりうるさくしてもいけない。ショパンのピアノ曲をギター用にアレンジした『ノクターン第2番 変ホ長調 作品9の2』を、小さめの音量で弾いてあげた。
演奏中も女性は「きれいな曲ね」と赤ちゃんに話しかけてあやしている。とても幸せそうだ。僕の顔も自然にほころんだ。こういうときは、つくづくバスキングをやっててよかったと思う。
至福の時間だ。
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曲が終わると、ギターケースに1ポンド硬貨を入れてくれた。
「この子、そろそろお腹がすいたみたいだから、ミルクあげなくっちゃ。また会いましょうね」
女性はこう言うと、乳母車を押した。僕はどんな赤ちゃんなのか一目見たかったので、身を乗り出して乳母車の中をのぞいてみた。
赤ちゃんは青い目をしていてすごく可愛いかった。
しかし、それが人形だと気づくまでにそう時間はかからなかった…。
+++本日の稼ぎ 59ポンド(11800円)+++
雑誌ダカーポが選ぶ「BOOK OF THE YEAR 2006-2007」受賞、産經新聞が選ぶ「2006年の最も面白かった本トップ3」にも選出される。
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